秋紫陽花
「何日かつづいたやわらかな雨に夏のあいだのほこりをすっかり洗い流された山肌は深く鮮やかな青みをたたえ、十月の風はすすきの穂をあちこちで揺らせ、細長い雲が凍りつくような青い天頂にぴたりとはりついていた。
空は高く、じっと見ていると目が痛くなるほどだった。
風は草原をわたり、彼女の髪をかすかに揺らせて雑木林に抜けていった。
梢の葉がさらさらと音をたて、遠くの方で犬の鳴く声が聞こえた。まるで別の世界の入り口から聞こえてくるような小さくかすんだ鳴き声だった。
その他にはどんな物音もなかった。
どんな物音も我々の耳には届かなかった。
誰一人ともすれ違わなかった。
真っ赤な鳥が二羽草原の中から何かに怯えたように飛びあがって雑木林の方に飛んでいくのを見かけただけだった。」
「ノルウェイの森」より抜粋
秋紫陽花が届きました。
季節が変わろうとしています。